【脊柱の障害|部位別の後遺障害認定】

背骨と脊椎の障害

脊柱の後遺障害についてまとめました。

 

  • 脊柱の構造の基礎知識
  • 脊柱に関する後遺障害等級表
  • 用語の定義と等級認定ルール
  • 認定上の争点になりやすい問題
  • 脊柱の検査一覧

 

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脊柱の構造の基礎知識

交通事故の裁判では、医学的な問題が法学的な問題・事故の物理的な問題とミックスで議論されます。

 

脊柱の障害であれば、脊柱の構造や脳・各部位との関係の知識などが前提とされます。

 

ここでも簡単に押さえておきましょう。

 

脊椎の解剖図

【脊椎の解剖図】

 

頭蓋骨のすぐ下の第一頸椎(環椎)から、骨盤の一部をなす仙椎、お尻にある尾骨までを含む骨の連なりです。

 

頭側から頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個の24個の椎骨と仙椎、尾骨からなります。

 

解剖学的にはこのとおりですが、障害等級表では脊椎には仙骨と尾骨は含まれません。

 

障害等級は実生活への影響度や労働能力の喪失率を判定するためのものなので、脊椎についてはその支持機能と運動機能に着目します。

 

この観点からすると、仙骨と尾骨は異質なわけです。

 

仙骨に関する後遺障害は、骨盤骨の後遺障害に含めて扱われます。

 

また、原則として頸椎と胸腰椎は別の部位として認定されます。

 

脊柱に関する後遺障害等級表

脊椎の中には脊髄という太い神経が貫通しており、全身の神経の幹線道路の役割を果たしています。

 

そのため、脊椎の損傷は全身の様々な部位の障害につながりますが、それらは各部位の後遺障害として認定されます。

 

四肢麻痺なども神経系統の障害として認定され、脊椎の障害としては認定されません。

 

脊髄の後遺障害とは脊髄自体の障害に限定され、それは変形障害と運動障害の2種に分かれます。

 

等級 変形障害 運動障害
第6級5号  脊柱に著しい変形を残すもの  脊柱に著しい運動障害を残すもの
第8級2号  脊柱に中程度の変形を残すもの  脊柱に運動障害を残すもの
第11級7号  脊柱に変形を残すもの  ---

 

用語の定義と等級認定ルール

 

変形障害

障害等級表の表現には具体的な定義がなされています。

 

等級 表現 後彎の程度 側弯の程度(コブ法)
潰れた椎骨の数 潰れ方の程度
6級  脊柱に著しい変形を残すもの  2個以上  1個分以上  -
 1個以上  1個分の50%以上  側弯度50%以上
8級  脊柱に中程度の変形を残すもの  1個以上  1個分の50%以上  -
 -  -  側弯度50%以上
 環椎(第一頸椎)軸椎(第二頸椎)の変形・固定が規定の程度以上
11級  脊柱に変形を残すもの  脊椎圧迫骨折がX線・CTまたはMRIで確認できるもの
 脊椎固定術が行われたもの
 3個以上の椎骨に椎弓形成術(椎弓切除術・脊柱管拡大術等)を受けたもの

 

表に出てくる用語や検査については、下記の「脊椎の検査一覧」を参照してください。

 

頸椎と胸腰椎は原則として別部位として扱われますが、変形が両方にまたがっている場合は、1体として扱います。

 

運動障害
等級 表現 認定要件
6級  脊柱に著しい運動障害を残すもの

 下記のいずれかにより、頸部および胸腰部が強直したもの

  • 頸椎と胸腰椎のそれぞれにX線写真等で確認できる圧迫骨折がある
  • 頸椎と胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われた
  • 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められる
8級  脊柱に運動障害を残すもの

 下記のいずれかにより、頸部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下になったもの

  • 頸椎または胸腰椎にX線写真等で確認できる圧迫骨折がある
  • 頸椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われた
  • 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められる
 頭蓋・上位頸椎間に著しい異常可動性が生じたもの

 

脊椎の運動障害が認められるためには、上表で分かる通り、他覚的所見が必要です。

 

運動障害の程度もどの程度動かせるかを医師が測定して、定量的に判断する取り決めになっています。(下記の参考可動域角度の表を参照)

 

疼痛のために運動障害が生じていても、X線写真等の証拠がなければ、局部の神経症状として扱われます。

 

【荷重機能障害】
運動障害のひとつに荷重機能障害があります。

 

首や腰を支えきれず、常に硬性コルセットを必要とする状態を指します。

 

荷重機能障害については後遺障害等級表に定めがないので、相当(準用)で等級認定することになっています。

 

等級 認定要件
6級相当  頸部と腰部の両方に保持困難があるもの
8級相当  頸部と腰部のいずれかに保持困難があるもの

 

なお、これについても認められるのは他覚的所見がある場合に限られます。

 

つまり、脊柱圧迫骨折・脱臼、脊柱を支える筋肉の麻痺、項背腰部軟部組織の明らかな器質変化などがあり、かつそれがX線写真などで客観的に確認できる場合です。

 

他の体幹骨の変形を伴う時のルール

脊柱の変形障害または運動障害と他の体幹骨の変形がともにある時は、併合して等級認定します。

 

頸部と胸腰部のそれぞれに変形/運動障害がある場合は、原則として部位ごとに認定し、併合の方法を用いて相当等級を決めます。

 

頸部に変形障害と運動障害がある時は、上位の方の等級を取ります。胸腰部の場合も同様。

 

これにはまだもう少し細かい例外措置がありますが、割愛します。

 

認定上の争点になりやすい問題

まず、他覚的所見、すなわちX線写真やCTなどで客観的に変化が確認されることが求められます。

 

疼痛や神経症状だけで認められた例もありますが、稀です。

 

検査の画像が不鮮明な場合、圧迫骨折の存否が問題になることがあります。

 

あるいは原因が交通事故ではなく、陳旧性(慢性)のものや尻もちをついた等のことではないかと疑われる場合があります。

 

既往のヘルニアなどがある場合、障害と事故との因果関係が問題にされますが、ヘルニアがあれば必ず否認されるわけではありません。

 

事故が原因というより、手術の仕方がまずくて悪化したのではないかと争われることもあります。

 

あと、労働能力喪失率が争点になる場合があります。

 

例えば第8級認定の脊髄障害は、同じ等級の四肢の一関節用廃や1眼失明ほど日常生活に影響がないという意見があります。

 

だから、等級ごとに定められた労働能力喪失率を割り引くべきだという議論です。

 

脊柱の検査一覧

 

脊椎変形障害の検査

以前は程度を外見で判断していましたが、平成16年の労働障害認定基準改正で極力定量的に判断するように変えられました。

 

表の「潰れた椎骨の数」は、正確には「椎体高減少椎体個数」です。

 

表の「潰れ方の程度」は、潰れた椎体の後方椎体高の合計と前方椎体高の差で測ります。

 

コブ法はX線写真を使って「側弯度」を算出する方法です。

 

いずれも詳細は割愛します。

 

主要運動・参考運動・参考可動域角度

体を動かせる角度を医師が測定して、脊椎運動障害の判断材料にするものです。

 

「強直」とは関節の「完全強直」または「これに近い状態」を指します、

 

「これに近い状態」とは、主要運動のすべてが参考可動域角度の10%以下に制限されるものを指します。

 

部位 主要/参考 運動種別 参考可動域角度
頸部  主要運動  屈曲・伸展  110度(屈曲60度、伸展50度)
 回旋  120度(右旋回60度、左旋回60度)
 参考運動  側屈  100度(右側屈50度、左側屈50度)
胸腰部  主要運動  屈曲・伸展  75度(屈曲45度、伸展30度)
 回旋  80度(右旋回40度、左旋回40度)
 参考運動  側屈  100度(右側屈50度、左側屈50度)