鼻欠損や嗅覚に関する後遺障害
鼻の後遺障害についてまとめました。
- 鼻の構造の基礎知識
- 鼻に関する後遺障害等級表
- 用語の定義と等級認定ルール
- 認定上の争点になりやすい問題
- 鼻の検査一覧
鼻の構造の基礎知識
交通事故の裁判では、医学的な問題が法学的な問題・事故の物理的な問題とミックスで議論されます。
鼻の障害であれば、鼻の構造や脳と鼻の関係の知識などが前提とされます。
ここでも簡単に押さえておきましょう。
【嗅覚器の構造】
鼻は、呼吸器の気道の通路(鼻腔)と臭覚器という2つの役割があります。
呼吸器の一環としての鼻腔は、単なる空気の通り道ではなく、加温・加湿・除塵などの機能を果たします。
鼻腔の上部が臭いを感じる部分で、嗅上皮にある嗅細胞がその役割を果たします。
鼻腔と脳は篩骨(しこつ)という骨で隔てられていますが、この骨をたくさんの嗅神経が貫通しています。
嗅細胞が得た情報は嗅神経を通って脳の嗅球に伝えられ、臭いを感じることになります。
【副鼻腔の構造】
副鼻腔は鼻腔を取り囲む骨にある空洞で、前頭洞・篩骨洞・上顎洞・蝶形洞の4つがあります。
鼻に関する後遺障害等級表
等級表にあるのは、下記の鼻の欠損に関する1項目だけです。
等級 |
障害の程度 |
---|---|
9級5号 |
鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの |
ここに言う「鼻の欠損」は大部分の欠損の場合を指しています。
ただし、鼻の一部の欠損でも見た目が悪ければ、外貌醜状として12級14号を認められる可能性があります。
鼻の欠損を伴わない機能障害については表に定めがありませんが、重要な感覚の喪失です。
そこで相当(労災用語では準用)という考え方で、等級の目安が定まってきています。
鼻の機能障害 |
相当とされる等級 |
---|---|
鼻呼吸困難 |
12級相当 |
臭覚脱失(T&Tオルファクトメータ 5.6以上) |
12級相当 |
嗅覚の減退(T&Tオルファクトメータ 2.6~5.5) |
14級相当 |
実生活への支障度が基準なので、視力の低下や喪失に比べてかなり軽い位置づけです。
しかし、調理師、調香師などの職業の人には致命傷です。
用語の定義と等級認定ルール
嗅覚障害の種類
呼吸性嗅覚障害 | 腫れものや分泌物で鼻内気流が物理的に妨げられることが原因の場合 |
---|---|
末梢神経性嗅覚障害 | 嗅細胞、嗅神経などの故障が原因の場合 |
混合性嗅覚障害 | 上の2つが合併している場合 |
交通事故で嗅覚障害が起きるケース分類
- 鼻骨や鼻中隔の骨折で鼻が塞がり、呼吸性嗅覚障害が起きる
- 嗅球と嗅細胞をつなぐ嗅糸(嗅神経の束)が切れて、末梢神経性嗅覚障害が起きる
- 前頭葉、側頭葉の挫傷や血種で中枢性嗅覚障害が起きる
以上の3タイプがあります。
認定上の争点になりやすい問題
嗅覚障害が生じたことによって労働能力の喪失がどの程度起きたのかが論点になることが多いです。
調香師や調理師なら認められやすいですが、一般的な職業ではなかなか難しいです。
弁護士が使う損害賠償請求のバイブル「赤本」にいくつかの例が出ていました。
- 花屋経営者に27年間14%の労働能力喪失を認めた
- 嗅覚脱失の中学家庭科教師に43年間14%を認めた
- 嗅覚脱失の調理師に平均余命の1/2(10年間)20%を認めた
調理師でたったの20%しか認められなかったのはきついですが、これが現実のようです。
あと、医師の検査に落ち度があったために嗅覚障害が認められなかった判例があります。
現在、わが国で保険請求が可能な嗅覚検査は、T&Tオルファクトメータかアリナミン静脈注射の2つだけです。
ところが、タバコや香水を嗅がせただけで「嗅覚障害あり」との診断書を書いたのです。
裁判では障害の証拠とは認められませんでした。
医師は後遺障害等級の事は知らないし、興味もない人がほとんどです。
医師任せではこんな落とし穴もあるわけです。
交通事故に強い弁護士に医師を主導してもらうことをおすすめします。
鼻の検査一覧
下記2種の嗅覚検査以外は、保険請求や裁判の場で認められないので注意しましょう。
T&Tオルファクトメータ |
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アリナミンテスト |
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