脳の損傷を原因としない精神障害
脳の損傷を原因としない精神障害が非器質性精神障害です。
これの内容と障害等級認定についてまとめました。
非器質性精神障害とは?
器質性精神障害とは脳の損傷に原因がある精神障害であり、具体的には高次脳機能障害や外傷性てんかんです。
これに対し、脳に損傷がなくても事故の影響でさまざまな精神症状が出ることがあります。
これが非器質性精神障害であり、障害等級の認定対象に入っています。
では、どのような内容が含まれるのでしょうか?
これは自賠責保険の医師への紹介項目が参考になります。
自賠責保険の医師への紹介項目
1.抑うつ状態 | 抑うつ気分、思考制止、行動制止、自殺念慮、自殺企図 |
---|---|
2.躁状態 | 爽快気分、易怒性、行為心迫、観念奔逸、誇大性 |
3.不安状態 | 不安・焦燥、恐怖症状、強迫症状 |
4.ストレス反応症状 | 侵入的回想、回避、感情の鈍化、過覚醒 |
5.身体表現性症状・解離症状 | 身体症状へのとらわれ・訴え、疾病恐怖、解離(転換)症状 |
6.幻覚妄想状態 | 幻覚、妄想、思考過程の障害、著しい奇異な行為 |
7.その他 | 不眠、記憶障害、知的能力の障害 |
非器質性精神障害の認定の変遷
非器質性精神障害は、従来は非常に軽い扱いしか受けていませんでした。
自賠責後遺障害等級でも最低等級の14級どまり。
専門家の見方も「普通はありえない症状」「特別に精神的に弱いか特異な素因を持った人にしか起きないこと」といった偏った見方が主流でした。
要するに精神疾患に対する認識がプリミティブだったのです。
しかし、現実には脳損傷の証拠がなくても、重篤な症状が現実に出ているケースが、「例外的」と無視できない頻度でありました。
そして訴訟に至った場合、裁判所は自賠責等級を無視して14級以上の等級で認定するケースがままありました。
こうした事態を受けて、平成15年に障害等級認定基準の改定が行われ、9級、12級、14級が認められるようになりました。
こうして今まで不当に軽い扱いを受けてきた被害者が救済されるようになりました。
現在の課題
しかし、この改正は別の問題ももたらしました。
器質的な証拠のない症状の因果関係や症状程度を公正に判断するのはとても難しい。
そのため、事故で起きたのかどうかよくわからない重い症状をどんどん認めていけば、加害者に対する公平を欠くことになります。
しかし、否定の方向に傾けば、以前の被害者に公平を欠いた状態に逆戻りしてしまいます。
何か公正な基準や信頼性のある審査手順はないか?
そういう模索が続けられていますが、いまだに正解は見つかっていません。
自賠責では、結局、審査会の専門家委員の結論で決まるとしかいいようのない認定方法になっています。
PTSD
今述べた課題に関連して一時問題になったのが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)です。
この概念が紹介されたころは、PTSDを訴えて高い等級が認定される判例が出ましたが、今は認められないケースが増えています。
新たに病名がつけられたところで、因果関係や症状程度の判定の難しさは変わらないからです。
PTSDを否認して、またはPTSDかどうかは争わず、高い等級認定をした上で素因減額する、などの例が増えています。
非器質性精神障害の等級認定
自賠責の基準は労災のそれに準拠することが求められており、両者の基準が一応、等級判定の目安とされています。
等級 |
労災障害認定基準の表現 |
自賠責保険の参考例 |
---|---|---|
9級 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの | 非器質性精神障害のため、日常生活において著しい支障が生じる場合 |
12級 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの | 非器質性精神障害のため、日常生活において頻繁に支障が生じる場合 |
14級 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの | 概ね日常生活は可能であるが、非器質性精神障害のため、日常生活において時々支障が生じる場合 |
かなり抽象的な内容で終わっており、結局は審査会出席者の意見で決まる属人的な判定になっているのが現状です。
認定上の争点になりやすい問題
器質性精神障害である高次脳機能障害での認定が争われ、認められなかった時に非器質性精神障害で認定されるパターンが多いです。
因果関係も問われやすい。
事故が原因というより、もともと持っていた精神の病気や特別な脆弱さが表面化しただけではないか、ということです。
等級認定はされても素因減額されることが多いです。
かみ砕いて言うと「訴えている症状が出ていることと、事故が原因であることは認めて、ふさわしい等級を認定します。しかし、普通の人には起きないケースで、あなたが持っている特別な素因が原因の一部をなしています。普通でない素因で拡大した被害を全部加害者にかぶせるのは不公平なので、あなたへの損害賠償を何割か減額します。」ということです。
事故から発症まで時間が経っていたり、事故の前後で事故以外にショックな出来事があった場合も、因果関係が疑問視されやすいです。