広範で複雑な脳と神経の障害
精神・神経の後遺障害は、後遺障害の中でも幅広く、難しい分野です。
このページではまず脳の機能の基本知識を押さえます。
その後、精神・神経の後遺障害を1分野ずつ整理していきます。
精神・神経の障害の4分類
1.脳の障害 |
【器質性障害】
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2.脊髄の障害 | |
3.末梢神経障害 | |
4.その他の特徴的障害 |
神経細胞の構造
【神経細胞の構造】
神経細胞は、核のある部分が樹状突起というものがたくさんついたヒトデのような形をしていて、そこから長い軸索が伸びています。
これで1個の細胞であり、他の細胞とは全く違う面白い形をしています。
軸索の先端は手のように枝分かれしていて、シナプスという結合部で隣の神経細胞の樹状突起につながっています。
情報は、樹状突起→軸索→シナプス という方向で伝達されます。
こういう神経細胞が無数につながって、脳・脊髄・神経系を形成しています。
脳の構造
脳は、大脳・小脳・脳幹に大別されます。
大脳 |
人間の脳で最も発達した部分。左右の半球に分かれ、脳梁でつながっている。 |
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小脳 | 平衡感覚や運動調節機能を担う部位。 |
脳幹 |
間脳、中脳、橋、延髄で構成されている。 |
【脳の構造】
脳の機能
脳の機能は「1次機能」と「高次脳機能」に分けられます。
1次機能 |
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高次脳機能 |
1次機能を連合することにより、様々な高度な情報処理をする。
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脳の機能の所在
脳の1次機能は、その種類ごとに脳の狭い範囲(1次野)が担っています。
例えば、聴覚を担う聴覚野は側頭葉にあります。
大脳の各葉の1次野を除いた部分を連合野といい、高次脳機能は連合野が担っています。
高次脳機能でも小さい領野に機能が局在しているものがあります。
言語理解に重要な役割を果たす側頭葉のウェルニッケ領域、言語表出に重要な役割を果たす前頭葉のブローカ領域などです。
大脳半球 |
一次野 |
連合野 |
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前頭葉 | 運動野、運動前野 | 前頭連合野 |
頭頂葉 | 体性感覚野 | 体性感覚連合野 |
側頭葉 | 聴覚野 | 聴覚連合野 |
後頭葉 | 視覚野 | 視覚連合野 |
脳障害の全体像
大脳半球の一部(局所)が損傷を受けると、そこが司どる機能に障害が出ます。
例えば、言語野がダメージを受けると言葉が話せなくなったり、話せても支離滅裂になったりします。
視覚野がやられると視覚障害が出ます。
脳の左半分にダメージを受けると右半身が麻痺する片麻痺(半身不随)が起きます。
こういう脳の局所的なダメージから発生する病状を「巣症状(そうしょうじょう)」と呼びます。
しかし、ダメージは局所的なものばかりでなく、広い範囲に及ぶこともあります。
広い範囲が薄いダメージを受けているため、X線やCT、MRIの画像で判別しにくい時もあります。
損傷範囲がはっきり限定できず、広範囲に広がっているものを「びまん性脳損傷」といいます。
びまん性脳損傷の場合、一見正常だが、まとまりのある計画的な行動ができないとか、一瞬前のことを覚えていないとか、人格が変わってしまったなどの症状が出ます。
より高度な統合機能が失われるのです。
こういうものを「高次脳機能障害」と呼びます。
昔は失語などの巣症状と身体麻痺しか認められず、「高次脳機能障害」を負った人は補償から取り残されていました。
近年このことが問題視されて制度が改正され、「高次脳機能障害」を自賠責で後遺障害等級認定するしくみができました。
さて、「高次脳機能障害」は「器質的」な原因が前提です。
つまり、画像判定でも難しい時があるが、それでも脳に何らかの損傷があって、それが原因で症状が出ているものです。
しかし、脳に損傷がない場合も様々な精神症状が出ます。
これは「非器質性精神障害」と呼ばれています。
すると「脳の損傷状況がわかりにくい高次脳機能障害」なのか、「非器質性精神障害」なのか、判別しにくいケースが出てきます。
どちらに位置付けるかで等級に大差があり、したがって損害賠償額も大きく変わり、等級認定や裁判では重要な争点なのです。
交通事故損害賠償における脳障害の捉え方についてまとめましょう。
まず、脳の損傷を伴う「器質性障害」に、「高次脳機能障害」と「身体麻痺」があり、あと「外傷性てんかん」があります。
失語・失認などの巣症状も高次脳機能障害に含みます。
そして、脳の損傷を伴わない「非器質性精神障害」があります。