【上肢・下肢の障害|部位別の後遺障害認定】

腕と脚の障害

上肢(腕)と下肢(脚)の後遺障害についてまとめました。

 

  • 上肢・下肢の構造の基礎知識
  • 上肢・下肢の後遺障害等級表と認定ルール
  • 認定上の争点になりやすい問題
  • 関節可動域測定法

 

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上肢・下肢の構造の基礎知識

上肢の骨格

【上肢の骨格】

 

下肢の骨格

【下肢の骨格】

 

上肢・下肢の後遺障害等級表と認定ルール

 

上肢・下肢の障害の全体像

上肢は上肢と手指、下肢は下肢と足指に区分され、左右が別の部位とされます。

 

各部位に認められる障害は下記のとおりです。

 

部位 欠損障害 機能障害 変形障害 短縮障害
 上肢
 下肢
 手指
 足指

 

この障害は時間とともに改善してくる傾向が強いので、十分な回復期間を取ってから等級認定します。

 

さらに将来の回復も織り込んで認定します。

 

この2点においては、被害者に厳しい基本認定姿勢になっているといえます。

 

複数の障害の残存と派生関係

欠損障害、機能障害、変形障害、短縮障害などは系列が異なる障害。

 

よって、同一の上肢・下肢に生じた場合も、それぞれ等級評価を行った上で併合等級を認定します。

 

ただし、複数の障害が派生関係にあると判断される場合は、それらの障害の中で最上位の等級が採用されます。

 

例えば、骨折後の癒合不全による長管骨の変形とその部位の疼痛が併存する場合などです。

 

上肢・下肢の欠損傷害
部位 等級 障害の程度
 上肢  1級3号  両上肢をひじ関節以上で失ったもの
 2級3号  両上肢を手関節以上で失ったもの
 4級4号  1上肢をひじ関節以上で失ったもの
 5級4号  1上肢を手関節以上で失ったもの
 下肢  1級5号  両下肢をひざ関節以上で失ったもの
 2級4号  両下肢を足関節以上で失ったもの
 4級5号  1下肢をひざ関節以上で失ったもの
 4級7号  両足をリスフラン関節以上で失ったもの
 5級5号  1下肢を足関節以上で失ったもの
 7級8号  1足をリスフラン関節以上で失ったもの

 

下肢の短縮障害・過成長

短縮障害とは、受傷した方の脚が他方の脚より短くなるものです。

 

しかし、年少者などにおいては逆に健全な脚より長くなる過成長になることもあります。

 

過成長は短縮障害に準じる障害として扱われます。

 

等級 障害の程度
 8級5号  1下肢を5cm以上短縮したもの
 8級相当  1下肢が5cm以上長くなったもの
 10級8号  1下肢を3cm以上短縮したもの
 10級相当  1下肢が3cm以上長くなったもの
 13級8号  1下肢を1cm以上短縮したもの
 13級相当  1下肢が1cm以上長くなったもの

 

上肢・下肢の機能障害

機能障害とは、基本的に3大関節の動きの障害です。

 

それ以外に上肢前腕の回内・回外運動が制限されている場合も機能障害とされます。

 

等級 障害の程度
1級  両上(下)肢全廃
5級

 1上(下)肢全廃

  • 上肢の3大関節のすべてが強直し、かつ手指の全部の用を廃したもの
  • 上腕神経叢の完全麻痺
  • 下肢の3大関節のすべてが強直したもの。3大関節が強直したことに加え、足指全部が強直しても、別途評価して等級を上げたりしない。
8級

 1関節用廃

  • 強直/完全弛緩性麻痺かそれに近いもの

 置換術で可動域1/2以下に制限

10級

 1関節用廃(可動域1/2以下)
 置換術で可動域1/2を超える

12級  1関節機能障害(可動域3/4以下)

 

これは人口骨頭置換術に関する平成16年の改正です。人工関節は従来一律8級で認定されていましたが、人工関節の技術が進歩したため、可動域が大きい場合は10級に格下げされました。

 

「強直」とは、間接がまったく可動しないか、健側の関節可動域の10%程度以下に制限されたものを指します。

 

完全弛緩性麻痺に近い状態とは、他動では可動するが、自動では健側の関節可動域の10%程度以下に制限されたものを指します。

 

その他、いろいろ細かく具体的な定義がありますが、割愛します。

 

動揺関節の相当認定

機能障害は関節の動きが悪くなったものとして定義されていますが、逆の障害もありえます。

 

つまり、ぐらぐらで安定しなくなったり、習慣的に脱臼したり、普通は曲がらない方向に曲がるようになってしまった、などです。

 

これを「動揺関節」といい、機能障害に準じるものとして相当等級を認定します。

 

部位 等級 障害の程度 準用元
上肢  10級  常に硬性補装具を必要とするもの  10級(「著しい機能障害」)に準じる
 12級  時々硬性補装具を必要とするもの  12級(「機能障害」)に準じる
 12級  習慣性脱臼  12級(「機能障害」)に準じる
下肢  8級  常に硬性補装具を必要とするもの  8級(「用を廃したもの」)に準じる
 10級  時々硬性補装具を必要とするもの  10級(「著しい機能障害」)に準じる
 12級  重激な労働等の際以外は硬性補装具を必要としないもの  12級(「機能障害」)に準じる
 12級  習慣性脱臼、または弾発膝  12級(「機能障害」)に準じる

 

上肢・下肢の変形障害

変形障害とは、「偽関節を残すもの」と「長管骨に癒合不全を残すもの」です。

 

偽関節とは、骨折した箇所がつながりきらないまま治癒が止まり、ぐらぐら動くものです。

 

部位 等級 障害の程度
上肢 7級9号  1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
8級8号  1上肢に偽関節を残すもの
12級8号  長管骨に変形を残すもの
下肢 7級10号  1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
8級9号  1下肢に偽関節を残すもの
12級8号  長管骨に変形を残すもの

 

それぞれに具体的な認定基準があります。

 

例えば上肢7級9号の「1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの」は次のいずれかに該当し、常に硬性補装具を必要とするものです。

 

  • 上腕骨の骨幹部等(骨幹部または骨幹端部)に癒合不全を残すもの
  • 橈骨および尺骨の両方の骨幹部等に癒合不全を残すもの

 

他の欄の認定基準の詳細は割愛します。

 

認定上の争点になりやすい問題

機能障害の有無は原則として三大関節の主要運動の制限をもって判断されます。

 

医師が正式な判断基準に沿った証拠をちゃんと提出しないと否認されることになります。

 

また、機能障害の原因は器質的損傷(骨折後の癒合、関節拘縮、神経の損傷)であることを証明する必要があります。

 

疼痛による可動域制限(痛いから曲げられない)では、神経症状と認定され、低い等級(12,14級)に認定されやすいです。

 

器質的損傷の証明なしに機能障害を認定した例はありますが、非常に例外的なものです。

 

また、器質性損傷の証明を出しても、それが事故前からのものではないか、加齢のせいもあるのではないかといった、因果関係を争ってくることもあります。

 

疼痛の中でも特殊なCRPS・RSD・カウザルギーなどは、関節機能障害と認定された例があります。

 

医師が提出した測定値そのものに疑いの目が向けられることがあります。

 

測定要領に従ってきちんと測定したのか、器質的損傷と可動域制限に整合性が認められるかがポイントです。

 

障害等級認定に関心と経験を持つ医師に頼まないと、不利な事態になることがあります。

 

機能障害の認定は、将来の回復見込みまで織り込んでなされるので、そこに対する見方でも争点が生まれます。

 

関節可動域測定法

測定要領に示された主要運動・参考運動は次のとおり。

 

主要運動の測定結果が等級認定の主たる判断材料になります。

 

部位 主要運動 参考運動
肩関節  屈曲、伸展・外転  内転、外旋・内旋
ひじ関節  屈曲・伸展  -
手(腕)関節  屈曲・伸展  撓屈・尺屈
前腕  改正で削除  改正で削除
股関節  屈曲・伸展、外転・内転  外旋・内旋
ひざ関節  屈曲・伸展  -
足関節  屈曲・伸展  -

 

医師が動かしてどこまで動くか調べる他動検査が基本です。

 

たいてい痛みが生じるので、どこまで痛いのを我慢させて動かすかは医師による個人差が出ることになります。

 

それゆえ、医師が測定要領を守り、器質的損傷と整合性のあるデータを出さないと、検査結果自体が疑われることになります。