背骨の中を通る太い中枢神経
脊髄の障害と等級認定についてまとめました。
脊髄の構造
背骨の中を貫通する太い神経の束です。
脳と全身の末梢神経をつなぐ、神経の幹線道路です。
ややこしいですが、背骨の方が脊椎(せきつい)、その中を通る神経が脊髄(せきずい)です。
脊髄は脳に近い方から輪切り状に区切って位置名(高位)がつけられています。
脊髄の高位
- 頚髄(C1~8)
- 胸髄(Th1~12)
- 腰髄(L1~5)
- 仙髄(S1~5)
- 尾髄(Co1)
脊椎(背骨)の方にも同様の名前が付けられていますが、体の下の方に行くほど位置がずれていきます。
例えば、脊髄のTh12は脊椎のTh12よりかなり上の方で、脊椎Th10とTh11の間くらいの位置です。
現実の脊髄には区切り線はついていませんが、この一区切りを髄節と呼びます。
各髄節の腹側から前根、背中側から後根というものが左右一対ずつ出ていて、末梢神経につながっています。
これにより、各髄節がそれぞれ体の部分の神経を支配しています。
脊髄損傷部位の高位診断
脊髄を損傷すると、損傷した髄節の支配領域より下の体の部分に神経脱落症状が発生します。
例えば一般的には、頚髄損傷では四肢麻痺、胸髄損傷では体幹と両下肢の対麻痺、腰髄損傷では両下肢の対麻痺が発生します。
逆に言うと、神経脱落症状の発生した部位から、損傷した高位を知ることができます。
神経学的な診断項目は大きく3つあります。
神経学的な診断項目
感覚障害 | 感覚麻痺(何も感じない)が体のどこで起きているか? |
---|---|
運動障害 | 運動麻痺(動かせない)が体のどこで起きているか? |
反射 |
反射
|
脊髄損傷では自律神経も障害され、その症状から高位を推定することが可能です。
発汗障害、起立性低血圧、自律神経過緊張反射、排尿障害、排便障害、勃起障害などを診ます。
画像診断
神経学的な診断のほかに画像診断が重要です。
単純X写真は、脊椎の骨折や脱臼の診断に有用です。
MRIは脊髄の詳しい状態を把握できます。
骨随腔造影(ミエログラフィー)や脊髄造影後CTは脊髄圧迫の有無が診断できます。
画像診断で器質的病変が確認できることは極めて有用です。
脊髄障害に関する後遺障害等級表
等級 |
症状と就労可能の程度 |
介護の要否 |
---|---|---|
1級1号 |
生命維持に必要な身の回り処理の動作ができない。 | 常時要介護 |
2級1号 |
生命維持に必要な身の回り処理の動作ができない。 | 随時要介護 |
3級3号 |
生命維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、脊髄症状のために労務に服することができないもの。 | 介護不要 |
5級2号 |
脊髄症状のため、きわめて軽易な労務以外には服することができないもの。 | |
7級4号 |
脊髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの。 | |
9級10号 |
通常の業務に服することはできるが、脊髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの。 | |
12級13号 |
通常の業務に服することはできるが、脊髄症状のため、多少の障害を残すもの。 |
脊髄損傷による麻痺と障害等級
等級 | 麻痺の範囲および程度 | ||
---|---|---|---|
四肢麻痺 | 対麻痺 | 単麻痺 | |
第1級 | 高度 中等度(要常時介護) |
高度 中等度(要常時介護) |
|
第2級 | 中等度 軽度(要随時介護) |
中等度(要随時介護) | |
第3級 | 軽度(介護不要) | 中等度(介護不要) | |
第5級 | 軽度 | 1下肢高度 | |
第7級 | 1下肢中等度 | ||
第9級 | 1下肢軽度 | ||
第12級 | 軽微な麻痺等: 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺。運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの |
麻痺の程度に関する認定基準
麻痺の程度 |
基準 |
上肢の場合の例 |
---|---|---|
高度 |
運動性・支持性がほとんど失われ、基本動作(※)ができないもの。
※下肢においては歩行や立位、上肢においては物を持ち上げて移動させること |
|
中等度 |
運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作にかなりの制限があるもの。 |
|
軽度 |
運動性・支持性が多少失われており、基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度失われているもの |
|
軽度に至らないもの | 運動障害がほとんど認められない程度の麻痺は麻痺と認定せず、12級の神経症状として等級認定する |
認定上の争点になりやすい問題
脊髄障害のことはかなり詳しくわかっています。
脊椎骨折・脱臼または画像所見があり、神経症状も損傷部位から予想されるパターンなら認定はスムーズです。
明確な他覚的証拠がない時や、あっても症状が整合しない場合に、脊髄損傷の存否が争われることになります。
脊髄損傷を認めた上で程度を争う事例は少ないです。
既往疾患がある場合は、素因減額が争点になることがあります。
例えば、OPLL(後縦靭帯骨化症)や脊柱管狭窄症などがあるところに事故の衝撃を受けて症状が悪化したとします。
脊髄障害は認められる可能性がありますが、既往症の影響度が「素因減額」として割り引かれます。
もちろん、「無症状のOPLLが事故を契機に発症しただけで、脊髄障害は発生していない」といった判断になることもあります。
また、事故から症状が出るまでに時間がかかった場合も、因果関係が争われることになりやすいです。
認められるためには、遅発の理由を医学的に合理的に説明することが求められます。